挨拶
2018年度 尾池教授挨拶
昨年(2017年)度より、熊本大学医学部医学科長を拝命し、いよいよ次年(2019年)度に迫った国際認証(医学分野)の受審に向け、医学教育カリキュラム改革を中心に、日々の激務に耐え精進しております。また、生命資源研究・支援センター長、および熊本大学教育研究評議会評議員も6年目となりますが、常に初心を忘れずに、熊本大学の発展に少しでも寄与出来るよう研究、教育を尚一層頑張る所存です。
本業である研究においては、分子遺伝学講座の研究チームを率いて12年目を迎えます。ここ最近の10年間注力してきたアンジオポエチンL2 (ANGPTL2)に関する研究は、基礎的研究成果として、(1)生体内での生理的役割、(2)肥満、糖尿病、動脈硬化性疾患、心不全、がん(悪性腫瘍)などの病態での役割が解明されてきております。さらに、様々な共同研究による臨床的研究成果として、血中ANGPTL2濃度と病態との関係、特に血中ANGPTL2濃度の上昇が将来への疾患発症の予測(健康寿命へのリスクの推定)に役立つ可能性が明らかになってきております。これらの成果を基に、個人レベルの健康寿命延伸に貢献できると考え、熊本大学医学部附属病院検査カフェ(希望者が自費)で、血中ANGPTL2濃度をいつでも測定できる体制を昨年度より開始いたしました。また、JSTのSTART事業の支援を受け、ANGPTL2遺伝子治療の臨床応用へむけた研究、体制作りも進めております。このように応用面でも少しずつではありますが、確実に進捗が認められているのは、大変喜ばしいことと感じております。
これから益々高齢者が増える社会に対して、我々は新しい切り口からも「老化」「加齢関連疾患」のメカニズム解明とその制御による健康寿命延伸に挑んでおります。興味深いデータが集積して参りましたので、少しでも早く発表できる様、さらに努力したいと思います。
昨今の医学・生物学の基盤研究は、科学・テクノロージーの進歩に伴い、これまで出来なかったことが可能となり、我々の研究へ多大な恩恵を与えてくれます。しかし一方で、研究においてのスピード競争も激化しております。さらに十分な研究設備、技術がないと研究も進まないという大変な時代となっております。米国の心理学者 William James博士が”We don’t laugh because we are happy, we are happy because we laugh”という言葉を残されております。私自身も日々の深刻な状況に直面しながらも、“笑顔”を忘れずに前向き思考で日々楽しみながら研究を進めたいと思っております。また、我々の成果により、一人でも多くの方が“笑顔”になり幸せな人生が送れるように、今年度も引き続き、自身の手によって得られた新知見を臨床的にも科学しつつ、その成果を将来的に多くの方の健康に還元するという目標に向かい頑張っていきたいと考えております。
平成30年4月1日 尾池 雄一
2015年度 尾池教授挨拶
分子遺伝学分野の研究チームを率いて9年目を迎えます。教授職も9年目にもなりますと、多少なりとも独善的になり、偏った見方や考え方で物事を判断してしまうリスクが高まりますが、幸いなことに、メンターである須田年生先生が、慶應義塾大学医学部教授を定年退職後に、国立シンガポール大学(NUS)とのクロスアポイントメント制度による兼任ですが、熊本大学先端医学研究機構長として13年ぶりに熊本で研究チームを率いられることになり、今後また大所高所から色々とご指導を受ける機会が増え、先述のリスクも軽減できるのではないかと大変喜んでいるところです。研究室には、まだ数名ではありますが、研究に興味を持つ志高い医学科学生が出入りし、まるで部活動のように日々研究に携わるようになり、スタッフ、大学院生への大きな刺激となっており、益々活気あふれた研究室となっており大変喜ばしい限りです。私自身の平成27年度のスタートに当っては、医学部国際認証に伴う医学教育カリキュラム改革など激務の医学科教育・教務委員長の大役を再任という形で任じられるという想定外の幕開けとなりましたが、生命資源研究・支援センター長、および熊本大学教育研究評議会評議員にも再任され、改めて襟元を正し、熊本大学の発展に少しでも寄与出来るよう研究、教育を尚一層頑張る所存です。
昨今の医学・生物学の基盤研究は、科学・テクノロージーの進歩に伴い、これまで出来なかったことが可能となり、我々の研究へ多大な恩恵を与えてくれます。しかし一方で、そのためにエディターやレビュアーからの要求が一段と厳しくなっており、1つの研究プロジェクトが論文としてアクセプトされるまで、4−5年、あるいはそれ以上かかるものも稀ではない、また一方で十分な研究費がないとその要求に対応出来ないという大変な時代となっております。私自身もまさにこの深刻な状況に直面しておりますが、前向き思考で日々楽しみながら研究を進めております。がんや生活習慣病領域など医学基礎研究の目覚ましい成果の大半が日常診療に還元されているとは云い難い状況、いわゆる「死の谷問題」を克服すべく、現在の恵まれた研究環境に感謝し、応えるべく自身の手によって得られた新知見を臨床的にも科学しつつ、その成果を将来的に患者さんに還元する(From bench to bedside)という目標を本年度も継続して追求しいきたいと考えております。
平成27年4月1日 尾池 雄一
2014年度 尾池教授挨拶
医学教育カリキュラム改革、国家試験対策など色々大変でした医学科教育・教務委員長職も任期満了となりましたので、熊大着任して8年目を迎えます今年度は、研究に集中し頑張りたいと思っております。研究室の現状は、本年度より博士研究者(スタッフ及び学内の兼担教員含む)9名、大学院生16名、実験補助者5名となり、まだ数名ですが、研究に興味を持つ志高い医学科学生も研究室に出入りするようになり活力に満ちあふれた研究室として成長してきております。
昨年度までJSPS/内閣府 最先端次世代研究開発支援(NEXT)プログラムにおいて「生活習慣病とがんの共通分子病態解明による健康長寿社会実現を目指した基盤研究」に対して研究支援を受け、多くの成果を得ることができました。さらにこの知見に立脚した研究提案「組織修復に基づく恒常性維持機構の変容による生活習慣病の病態解明と制御」が、昨年より独立法人科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業CREST研究領域「生体の恒常性維持・変容・破綻機構のネットワーク的理解に基づく最適医療実現のための技術創出」に採択され、さらに充実した研究体制が整いました。このように、これまでの7年間、activity高く研究を楽しみながら続けられたのは、研究室に在籍している、あるいは在籍していた大学院生、研究者の日々の研究力、国内外の多くの共同研究者のご支援のおかげであると深く感謝しているところです。研究テーマの一つであるアンジオポエチン様因子に関する研究では、新規受容体の同定(未発表)や分解酵素の同定(Sci Signal 2014)など、続々と成果が集積してきており、その中には全く予期していなかった成果も含まれており、さらに研究を楽しめそうです。着任後、特に力を注いできたアンジオポエチン様因子2に関する一連の研究成果を、Trends in Endocrinology & Metabolism誌に総説論文”Diverse roles of ANGPTL2 in physiology and pathophysiology”としてまとめましたが、これまでの仕事の自己評価、さらにこれからの研究方向性を改めてしっかりと考える良い機会にとなりました。また、遺伝子トラップ法によりがんや生活習慣病の病態に関わる新規遺伝子を同定する挑戦的研究プロジェクトも、荒木喜美先生(熊大 生命資源センター教授)との共同研究により、これらの病態に深く関わる新規のlong non-coding RNA(lncRNA)が同定され、出来るだけ早くその全貌を解明したいと頑張っております。
がんや生活習慣病領域などの医学基礎研究の成果は目覚ましいものがありますが、その成果の大半が日常診療に還元されているとは云い難い状況、いわゆる「死の谷」が問題視されております。現在の恵まれた研究環境に感謝し、応えるべく自身の手によって得られた新知見を臨床的にも科学しつつ、その成果を将来的に患者さんに還元する(From bench to bedside)という目標を追求していきたいと考えております。
平成26年4月1日 尾池雄一
2012年度 尾池教授挨拶
熊本大学で研究室を立ち上げてから早いもので丸5年が過ぎ、4月から6年目を迎えております。研究室運営に当たっては、「研究を組織的に効率よく進めない 限り、地方大学の小研究室が勝ち残れる道はない」という強い信念のもと、個々の研究テーマは違っても各々が多少の関連性を持って互いの結果が相補的に作用 するように、同じ方向に向かった一つのチームとして研究を進めております。また、高い志を持つ者の切磋琢磨の場と考え、出身学部に関わらず、研究に没頭で きる環境を提供しております。その結果、この5年間で7人が博士(医学)を、また7人が修士を修得しており、順調に研究室が立ち上がったのではないかと 思っております。特に、熊本大学着任後に力を入れているアンジオポエチン様因子2に関する研究では、肥満、インスリン抵抗性(Cell Metab 2009)、関節リウマチ(Am J Pathol 2010)、発がん・がん転移(Cancer Res 2011, 2012)等、病態における意義が解明されてきております。現在、機能解析、発現制御機構解析、シグナル解析に関する成果も集積してきており本年度も続々 と成果が発表できるものと期待しています。その中にはセレンディピティー的な成果も含まれており、研究の楽しい一面を味わっております。一方、なかなか進 捗できずに苦労している研究テーマも抱えており、研究の苦しい一面も含め研究生活を堪能しつつ、何とか打破したいと努力を続けているところです。近年、が んや生活習慣病領域などの医学基礎研究の成果は目覚ましいものがありますが、その成果の大半が日常診療に還元されているとは云い難い状況にあります。次の 5年では是非とも、自身の手によって得られた新知見を多くの臨床に携わる先生方との共同研究を通して臨床的にも科学しつつ、その成果を将来的に患者さんに 還元する(From bench to bedside)という目標を追求していきたいと考えております。
2010年度 尾池教授挨拶
平成19年(2007年)4月熊本大学に着任し、早いもので丸3年が経ち、4年目を迎えております。教室員は現在25名(大学院生15名)と就任当初の人数の3倍に増え、様々な臨床講座から色々な興味や臨床背景を持つ博士課程の大学院生のみならず、薬剤師、臨床検査技師などの修士課程の大学院生が研究する活気のある研究室へと成長しつつ有ります。研究の面では、教室の当面の大きな研究テーマである「我々が同定したAngptl分子を対象に機能解析、発現制御機構解析、シグナル解明、ヒト患者における病態変動や健常の加齢に伴う発現変動の解析を行うことにより、生活習慣関連ストレスに対する生体防御応答機構、及びその変調や破綻から動脈硬化、肥満、糖尿病、がん等の生活習慣関連疾患発症への分子機構を解明し、新規治療法・診断法開発に繋がる基盤研究を行う」に関して、慶應義塾大学内科から来ていた田畑先生(現在 Harvard Medical School, Pere Puigserver研究室留学中)が、肥満、インスリン抵抗性におけるAngptl2の役割(Cell Metab 2009)、熊本大学整形外科から来ていた岡田先生(現在 熊本大学整形外科医員)が関節リウマチにおけるAngptl2の役割(Am J Pathol 2010)を次々と報告するなど、順調に成果が出てきております。他の研究メンバーも、論文投稿中や準備中、また研究中のもの等、興味深い結果が沢山得られており、私自身、今まさに研究の楽しさを堪能しているところです。一方、教育に関しては、着任以来、学部教育、大学院教育一貫して、日進月歩の医学知識と技術を十分身に付けようとする姿勢、明日の医学を開拓しようとする高い志をもつ若い人材の育成を目指して頑張っております。医学部学生の基礎配属では、実習期間終了後も研究室に出入りして研究に興味を持ち続けてくれるような高い志をもつ学生さんも出始めており、今後このような学生さんが増えることを期待しているところです。
私自身、国内外の多くの同世代の研究者にであう事ができ沢山の刺激を受けたことが貴重な財産になっております。それ故、研究室運営に当たっては、これまで通りに高い志を持つ者の切磋琢磨の場と考え医学部出身者のみならず他学部出身者にも広く門戸を開き多くの人材がこの熊本の地より世界に羽ばたける様な環境を提供していきたいと考えております。
近年、生活習慣病学、血管生物学領域の研究成果は目覚ましいものがありますが、その成果の大半が日常診療に還元されているとは云い難い状況にあります。我々は、自身の手によって得られた新知見を多くの臨床に携わる先生方との共同研究を通して臨床的にも科学しつつ、その成果を将来的に患者さんに還元する(From bench to bedside)という目標を追求していきたいと考えております。
2007年度 尾池教授挨拶
当講座は昭和59年(1984年)4月に熊本大学医学部附属遺伝医学研究施設遺伝病理学部門実験病理部として創設され、昭和60年(1985年)2月に初代森正敬教授が就任されました。平成4年(1992年)4月に熊本大学医学部附属遺伝医学研究施設が熊本大学医学部附属遺伝発生医学研究施設に改組されたのに伴い、当講座は医学部附属研究施設の研究分野から医学部講座へと配置転換され、熊本大学医学部分子遺伝学講座として分子遺伝学、分子生物学の教育、研究を行ってまいりました。平成15年(2003年)4月から熊本大学は大学院大学に改組され、医学部分子遺伝学講座は医学薬学研究部先端生命医療科学部門成育再建・移植医学講座分子遺伝学分野(Department of Molecular Genetics)となり、平成16年(2004年)4月から国立熊本大学は国立大学法人熊本大学となりました。平成19年(2007年)4月から、私 尾池雄一が二代目の教授に就任致しました。
まず、研究に対しての抱負としましては、私が今まで行って参りました「血管新生の分子基盤解明」「病態形成における血管新生の役割解明」「生体の恒常性維持の分子基盤をエネルギー代謝、脂質代謝、糖代謝の制御機構の面から解明する」に森正敬前教授の時代よりの当講座の強みでもある小胞体ストレス研究、ミトコンドリア生物学研究などと融合させ新たな切り口で血管と代謝の生理的機能制御分子基盤、及びその不全(破綻)状態である病態の発症機構解明に挑みたいと思っております。特に動脈硬化、メタボリックシンドローム(肥満、糖代謝異常、脂質代謝異常)、がん、炎症性疾患を標的にその分子機構の解明と新規治療法の開発に挑みたいと考えております。
教育に対しての抱負としましては、学部教育、大学院教育一貫して、日進月歩の医学知識と技術を十分身に付けようとする姿勢、明日の医学を開拓しようとする高い志をもつ若い人材の育成に努力致したいと考えております。その結果として、「世界に挑戦する」、または「地域に貢献する」人材が育ってくれればと思っております。その中で、分子遺伝学を担当させて頂く者として、遺伝子DNAや遺伝情報システムを理解することはもとより、多因子疾患、集団、進化など遺伝学が教えてくれる生命現象を分子レベルで解析することの重要性や大腸菌やファージなどの遺伝学の現象を基盤に発展した分子生物学を学び理解していくことの重要性も伝えて行きたいと考えております。またこういった広義の分子遺伝学を学ぶことを通じて、遺伝子DNAから始まり、細胞、組織、個体、個体のホメオスターシスの揺らぎである疾患までを局面のみならず包括的に理解ができるような医師や医学研究者育成に貢献していけるよう努力いたす所存でございます。最後に、私自身の研究生活を振り返ってみますと国内外の多くの同世代の研究者にであう事ができ沢山の刺激を受けたことが貴重な財産になっております。それ故、研究室運営に当たっては、高い志を持つ者の切磋琢磨の場と考え医学部出身者のみならず他学部出身者にも広く門戸を開き多くの人材がこの熊本の地より世界に羽ばたける様な環境を提供していきたいと考えております。