経歴・研究成果
教 授:尾池 雄一(経歴)
氏 名(ふりがな)
尾池 雄一(おいけ ゆういち)
生 年 月
1966年1月
勤 務 先 ・ 役 職
熊本大学大学院生命科学研究部・教授
総合医薬科学部門 代謝・循環医学分野 分子遺伝学講座
(※ 2019年4月より、事務改変のため、正式名称が変更となりました)
〒860-8556 熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-373-5140 FAX:096-373-5145
E-mail:oike(アットマーク)gpo.kumamoto-u.ac.jp
学 位
医学博士(1999年3月 熊本大学)
学 歴
1978年3月 | 熊本大学教育学部附属小学校 卒業 |
1981年3月 | 熊本大学教育学部附属中学校 卒業 |
1984年3月31日 | 熊本県立熊本高等学校 卒業 |
1984年4月 1日 | 自治医科大学医学部医学科 入学 |
1990年3月10日 | 同上 卒業 |
1995年4月 1日 | 熊本大学大学院医学研究科博士課程内科学専攻入学 |
(指導教授:循環器内科学 泰江弘文教授、発生遺伝学 山村研一教授) | |
1999年3月31日 | 同上 修了(医学博士 博医第1197号) |
職 歴
1990年6月 1日 | 熊本赤十字病院 研修医 レジデント |
1992年7月 1日 | 熊本県における地域医療 (湯島診療所、蘇陽病院) |
1994年7月 1日 | 熊本大学医学部附属病院循環器内科 医員 (泰江弘文教授) |
1999年4月 1日 | 熊本大学医学部 助手 (須田年生教授) |
2002年4月 1日 | 慶應義塾大学医学部 専任講師 (須田年生教授) |
2006年10月1日 | 慶應義塾大学医学部 助教授 (総合医科学研究センター 血管・代謝医学研究室) |
2007年4月 1日 | 熊本大学大学院・医学系 教授 |
現在に至る |
兼 任 / 併 任
2005年10月〜2009年3月 | 独立法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ研究領域「代謝と機能制御」研究者 |
2007年4月〜2016年3月 | 慶應義塾大学医学部 非常勤講師(医化学) |
2007年4月〜 | 早稲田大学先進理工学研究科 非常勤講師(病態医化学) |
2011年3月〜2014年3月 | 内閣府/JSPS 最先端・次世代研究開発支援プログラム 研究代表者 |
2012年4月〜2022年3月 | 熊本大学発生医学研究所附属臓器再建研究センター 教授 |
2013年4月〜2023年3月 | 熊本大学生命資源研究・支援センター長 |
2013年4月〜 | 熊本大学教育研究評議会評議員 |
2013年10月〜2019年3月 | 独立法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 CREST研究 研究代表者 (2015年4月〜国立研究開発法人日本医療研究開発機構に移管) |
2017年4月〜2023年3月 | 熊本大学医学部 医学科長 および 副学部長 |
2017年4月〜2023年3月 | 熊本大学大学院生命科学研究部 臨床医学教育研究センター長 |
2017年10月〜2020年3月 | 国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST) 研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム(START) 研究代表者 |
2017年10月〜2022年3月 | 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 老化メカニズムの解明・制御プロジェクト 個体・臓器老化研究拠点 分担研究者 (主任研究者:東北大学大学院医学系研究科 片桐秀樹先生) |
2017年10月〜2022年3月 | 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED) 老化メカニズムの解明・制御プロジェクト 老化研究推進・支援拠点 分担研究者 (主任研究者:公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構 鍋島陽一先生) |
2023年4月〜 | 熊本大学医学部長 |
2023年4月〜 | 熊本大学大学院医学教育部長 |
2023年4月〜 | 熊本大学大学院生命科学研究部長 |
免 許 / 資 格
医師免許
日本内科学会 総合内科専門医
日本循環器学会 循環器専門医
日本肥満学会 肥満症専門医・指導医
所属学会等
日本内科学会
日本循環器学会(FJCS会員)
日本分子生物学会
日本血管生物医学会(理事)
米国心臓病学会
日本生化学会(代議員)
日本癌学会
日本肥満学会(評議員)
日本糖尿病学会(学術評議員)
日本糖尿病・肥満動物学会(評議員)
日本高血圧学会
日本体質医学会(評議員)
国際心臓研究学会(ISHR)日本部会(理事)
日本抗加齢医学会(理事)
脳心血管抗加齢研究会(世話人、評議員)
日本抗加齢協会(理事)
肥後医育振興会(常任理事)
受 賞
日本肥満学会学術奨励賞(2010年)
成人血管病研究振興財団 岡本研究奨励賞(2005年)
第68回 日本循環器学会Young Investigator’s Award(2004年)
第8回 日本血管生物医学会Young Investigator’s Award(2000年)
研究奨励・助成
2019年
- 2019年度 公益財団法人 先進医薬研究振興財団 循環医学分野 一般研究助成金
2016年
- 公益財団法人 武田科学振興財団 特定研究助成
2015年
- 平成27年度 公益財団法人 先進医薬研究振興財団 循環医学分野 一般研究助成金
2013年
- 第7回 公益財団法人 小林がん学術振興会研究助成金
2012年
- 平成24年度 内藤記念科学振興財団 科学奨励金研究助成
2009年
- 平成21年度 三菱財団 自然科学研究助成
- 平成21年度 細胞科学研究財団 研究助成
- 平成21年度 東京生化学研究会 研究助成金
2008年
- 平成20年度 住友財団 基礎科学研究助成
- 第26回 持田記念医学薬学振興財団 研究助成金
- 武田科学振興財団 報彰基金 研究奨励
- 平成20年度 上原記念生命科学財団 研究推進特別奨励金
- 平成20年度 安田記念医学財団 癌研究助成
- 加藤記念バイオサイエンス研究振興財団 創立20周年記念特別枠研究助成
2006年
- 三井生命厚生事業団医学研究助成
- 第38回 病態代謝研究会 研究助成金
- 第1回 Vascular Biology Innovation Conference最優秀賞
2005年
- 第31回 日本心臓財団研究奨励
- 第19回 公益信託加藤記念難病研究助成基金
- 2005年度 武田科学振興財団 報彰基金 研究奨励
- 第37回 病態代謝研究会 研究助成金
- 第10回 循環調節因子研究会 最優秀賞
2004年
- 第22回 持田記念医学薬学振興財団 研究助成金
- 第9回 循環調節因子研究会 最優秀賞
2003年
- 第35回 病態代謝研究会 研究助成金
- 第1回 血管・血液オルビスYoung Investigator’s Award
2002年
- 第34回 病態代謝研究会 研究助成金
- 平成14年度 東京生化学研究会 研究奨励金
2001年
- 第33回 病態代謝研究会 研究助成金
- 2001年度 武田科学振興財団 報彰基金 研究奨励
学内表彰(熊本大学)
平成19年度 研究活動表彰
平成20年度 研究活動表彰
平成21年度 研究活動表彰
平成21年度 大学院教育活動表彰
平成22年度 研究活動表彰
平成23年度 研究活動表彰
平成24年度 研究活動表彰
平成25年度 研究活動表彰
平成26年度 研究活動表彰
平成27年度 研究活動表彰
平成28年度 研究活動表彰
平成29年度 研究活動表彰
平成30年度 研究活動表彰
令和 元年度 研究活動表彰
(研究活動表彰制度は、令和元年度にて終了)
令和 2年度 大学教育活動表彰
教 授:尾池 雄一(研究成果)
研究内容とその成果
内科・循環器内科の臨床医としての経験を通して、様々な疾患において、病態発症・進展に個人差があることを実感し、なぜ個人差が生じるのか、そのためには病態発症・進展機構解明が重要であると考えるようになりました。1992年頃より世界的に先天性疾患ばか りでなく、狭心症や心筋梗塞のような生活習慣が関わってくるような後天的疾患でも遺伝子の塩基変異との連関が報告され、遺伝子の変異(SNPs)によりその疾患への罹患・発症率が異なることが注目されはじめました。1993年から当時北海道大学に在籍されておられました羽田明先生(千葉大学名誉教授)のもとで分子遺伝学的研究を学ぶため、熊本の地より臨床を行いながら通い、我が国における虚血性心疾患発症と遺伝子変異の関連に関しての最初の論文として、狭心症や心筋梗塞とアンジオテンシン変換酵素(ACE)の遺伝子変異との関連を報告致しました(J Clin Invest 1995)。この経験により内科医として臨床・研究を本格的に学びたいと考えが強くなり泰江弘文教授(当時)が主宰されておられました熊本大学医学部循環器内科学講座に1994年入局致しました。翌年、じっくりと腰を据えて研究を行うために熊本大学大学院医学研究科博士課程内科学専攻に入学し、発生遺伝学教室山村研一教授(当時)のもとで、分子遺伝学、分子生物学、発生工学を学ぶ機会を得ました。在学中には、心血管系で重要な役割を果たしている分子の探索を試み、 種々の転写因子の共役因子であるCBP (CREB binding protein)が心血管系形成に重要であることを見出し(Blood 1999、Hum Mol Genet 1999)博士(医学)を頂きました。大学院修了後は、分化制御学教室須田年生教授(当時)のもとで、熊本大学助手として、2002年からは須田教授の慶應義塾大学への研究拠点移動に伴い慶應義塾大学講師として「血管新生の分子基盤解明」の研究を展開致し発生期の生理的血管新生及び病態形成における血管・リン パ管新生の分子基盤を解明してきました。特に発生期血管系構築研究ではEphrinB2(Blood 2001, Blood 2002, ATVB2003a, ATVB2003b)、VEGF-C(Blood 2000)、Angiopoietin1(Blood 2005a, Blood 2005b, Blood 2006)、Neuropilin1(Blood 2003大阪大学 高倉伸幸先生との共同研究) 、Evi-1(EMBO J 2005宮崎大学 森下和広先生との共同研究) の役割、ユビキチンプロテオソーム系が血管発生における動脈・静脈分化(J Biol Chem 2004九州大学 中山敬一先生との共同研究)及び造血幹細胞維持(Genes Dev 2008九州大学 中山敬一先生との共同研究) に重要であることなどを明らかにしました。また、我々が新規クローニングしたAngptlファミリーが様々な状況における血管新生に関与すること (Cancer Res 2003, Blood 2004, PNAS 2003, PNAS 2005)、ヒト心筋梗塞症例で発症後に骨髄由来の血管内皮前駆細胞が循環血液中に存在すること(Circulation 2001名古屋大学 室原豊明先生との共同研究) なども明らかにしてきました。上述の血管研究に加え、臨床に携わっているときからの興味でありました循環器疾患の後天的危険因子として、肥満、糖代謝異常、脂質代謝異常、高血圧などが合併するメタボリック症候群の分子機構解明の研究も1999年頃よりスタート致しました。この病態では、それぞれの異常が 単独では軽いものの階層的、相互的に連関しながら重症化していくため、包括的に改善に向かわせるためには、分子治療標的は、病態のより上流に位置する程良 いと考え、肥満という病態に着目致しました。CBP変異マウスが「やせ」「インスリン感受性亢進」を示すことより、CBPを軸として転写調節で肥満をはじめとするメタボリック症候群の発症機構の解明及び新たな治療法の開発の可能性を報告いたしました(Nat Genet 2002,東京大学 門脇孝先生、山内敏正先生との共同研究)。2002年に慶應義塾大学へ異動後は、我々が肝臓から分泌され血中を循環する血管新生因子 として世界に先駆けて報告した分子AGFがエネルギー消費及びインスリン感受性促進作用を血管新生作用とは独立して有することを見出し、AGF及びAGF によって活性化される細胞内シグナルをメタボリック症候群の新しい治療標的として報告いたしました(Nat Med 2005)。この研究を契機にAngptlファミリーをメタボリックシンドロームの治療標的と考え機能解析を開始しました(Trends Mol Med 2005, Trends Cardiovasc Med 2008, Circ J 2009)。2006年からは慶應義塾大学助教授として慶應義塾大学医学部総合医科学研究センター内の血管・代謝医学研究に関する独立した研究室において、血管・代謝制御機構解明研究を推進し、がん、動脈硬化、内臓脂肪型肥満といった一見全く異なる疾患でも慢性炎症、組織リモデリングなど共通の病態基盤 があることを見出し、共通の分子基盤解明を開始しました。その中でも特に血管新生、マクロファージの病態形成への役割、その分子基盤に興味を持ち研究を進めました(Circ Res 2007,KAIST Gou Young Koh先生との共同研究)。
2007年に、熊本大学大学院医学薬学研究部(現 大学院生命科学研究部)分子遺伝学講座教授に就任しました。新しい研究室のスタートにあたり、研究テーマを、「我々が同定したAngptlの機能および発現制御機構解明、シグナル解明、ヒト患者における病態変動や健常の加齢に伴う発現変動の解明により、生活習慣関連ストレスに対する生体防御応答機構、及びその変調や破綻から動脈硬化、肥満、糖尿病、がん等の生活習慣関連疾患発症への分子機構を解明し、新規治療法・診断法開発に繋がる基盤研究」と、分子遺伝学講座が研究実績を有する「小胞体ストレスの動脈硬化、肥満、糖尿病、がん等の生活習慣関連疾患に対する意義の解明研究」に焦点し研究展開を開始しました。後者に関しては、動脈硬化性プラークの脆弱性における小胞体ストレスの意義(Arterioscler Thromb Vasc Biol2010)、心筋虚血再灌流傷害における小胞体ストレスの意義(Arterioscler Thromb Vasc Biol2011)、インスリン分泌障害におけるミトコンドリア機能異常と酸化ストレスの意義(J Biol Chem 2011)など、着任早々に成果を報告でき、新たな研究室での順調なスタートとなりました。
一方、前者のAngptl研究では、Angptl2を中心に研究を進めることにしました。その結果、Angptl2が生体の恒常性維持に重要な役割を果たしていること(J Biol Chem 2016, Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol 2016, EMBO J 2017, Osteoarthritis Cartilage 2018)、一方、加齢や生体内の様々なストレスによりAngptl2が過剰に産生され機能し、Angptl2による生体の恒常性維持機構の変容/破綻が生じ、該当する組織において局所的に慢性炎症が惹起され、がん/悪性腫瘍(Cancer Res 2011, 2012, Mol Cancer Res 2014, Sci Signal2014, Cancer Sci 2014, 2020, Sci Rep 2015)、脳・心血管・代謝・腎臓疾患(Cell Metab 2009, Arterioscler Thromb Vasc Biol 2012, 2014, J Mol Cell Cardiol 2013, Kidne Int 2016, PLoS ONE 2016)、サルコペニア(J Biol Chem 2018, PLoS ONE 2019)など、多くの加齢関連疾患の発症、進展に関わっていることを明らかにしました。さらに興味深いことに、細胞老化表現型を示す細胞よりAngptl2が過剰に産生・分泌されることが明らかとなり、Senescence-Associated Secretary Phenotype (SASP)の一つとして加齢性変化、加齢関連疾患とAngptl2が強い連関にあることが明らかとなりました(Trends Endocrinol Metab 2014)。さらに、Angptl2は血中へ分泌され循環するタンパク質ですので、その血中濃度の変化は、上記の病態の発症、進展、予後をモニターできる良いツールになると考え、血中濃度測定系を確立しました。期待通りに、血中Angptl2濃度は、肥満/MetSで上昇し、生活習慣への介入により低下できること(Nutr Diab 2011)、肥満、糖尿病患者との連関(Cell Metab 2009, Diabetes Care 2013)、慢性腎臓病患者との連関(Circ J 2013, Nephrol Dial Transplant 2019)、心血管病との連関(Circ J 2009, 2018, Arterioscler Thromb Vasc Biol 2016)、加齢との連関(Arterioscler Thromb Vasc Biol 2014, Nat Commun 2020)、がんとの連関(Int J Biol Markers 2014)等を明らかにしました。この成果は、熊大病院の検査カフェの検査項目の一つとして、血中Angptl2濃度測定による加齢とともに増加する様々な疾患への発症リスクの予測を、一般人へ還元し実装することを2017年度より開始しております。これまでELISAで計測しておりましたが、最近、血中Angptl2濃度の自動測定系開発に成功し、これにより大量の検体を短時間で測定できるようになりました。今後、2022年度に開始する国内企業チームとの共同研究により、血中Angptl2濃度の示す意義解明研究を加速させたいと考えております。
がんにおけるAngptl2では、上述したようにがん細胞由来のAngptl2が炎症促進作用、血管新生作用、組織浸潤作用などがん促進作用を示す一方、がん周囲の微小環境内の種々の細胞由来のAngptl2は、がん免疫促進作用を有すことを見出し(Genes Dev 2017, Oncogene 2020)、TGF-βやBMPのようにAngptl2もがん病態に対して2面性を示すことを明らかにした。現在、がんの克服に向けて、がん細胞と微小環境との相互作用解明は避けることができないと考え、がんにおけるAngptl2の機能解明をより詳細に進めております。
一方、心臓の研究を進めていく過程において、加齢性変化に伴いその産生量が増加するAngptl2と加齢に伴い低下するミトコンドリア機能と心不全病態を繋ぐ知見が認められました(Nat Commun 2016)。またこの知見で、日本(第6978774号)、米国(16/826984)で特許取得致しました。現在、この成果に立脚した心不全治療薬の開発に向けて、ブリストルマイヤーズ社と共同研究を進めております。さらにこの研究成果より、加齢および関連疾患の発症機構解明には、ミトコンドリア機能の恒常性維持機構解明が重要であると考え、新たな研究テーマの柱の一つとして、ミトコンドリア機能の恒常性維持機構の分子基盤解明を掲げ、研究を展開しております。その一つとして、我々がマウスゲノムで新規同定したlong noncoding RNAであるCaren(Cardiac enriched lincRNA)が、ミトコンドリア恒常性に重要であることを明らかにしました。さらにDNA damage responseの活性化抑制機能も示すこと、これらの機能を介して抗心不全作用を示すことを見出しました(Nat Commun 2021)。現在、ヒトCarenの同定に成功し、臨床応用に向けさらに研究を進めております。また、高齢社会となり増加し続けている心不全に関する複数の別プロジェクトを進めており、興味ある成果も出ており論文化に向け頑張っております。多くの加齢関連疾患がミトコンドリア機能低下や慢性炎症と連関していることを考えると、心不全のみならず多くの加齢関連疾患の発症・進展に関わる機構において、Angptl2およびCarenの役割解明は重要と考え研究を進めております。
なお、Angptl2以外のAngptlファミリー因子では、Angptl3が脂質異常症の新規治療戦略の標的タンパク質として注目を集めており、その抗体療法やアンチセンスオリゴによる治療は人での有効性もNEJMに連発されております。我々は、抗Angptl3治療戦略を安価に普及するためにAngptl3ワクチンの開発に成功し、家族性高コレステロール血症(FH)及び動脈硬化のマウスモデルにおいて治療効果を示しました(Cell Rep Med 2021)。このプロジェクトも現在、ヒトFHへの臨床応用に向け、新たに企業との共同研究も開始しさらに研究を進めております。
また、南野徹先生(順天堂大学教授)との脂肪組織の老化と糖尿病発症の関連に関する研究(Nat Med 2009)、門脇孝先生(東京大学名誉教授)、山内敏正先生(東京大学教授)とのAdiopR1の骨格筋を介した抗糖尿病作用に関する研究(Nature 2010)、門脇孝先生(東京大学名誉教授)、窪田直人先生(東京大学)との末梢骨格筋の糖取り込み異常における血管内皮細胞インスリンシグナルの意義に関する研究 (Cell Metab 2011)、宮崎徹先生(東京大学教授)とのAIMの抗肥満作用に関する研究(Cell Metab 2010)、中山敬一先生(九州大学教授)とのFbxw7の肝における脂質代謝制御における意義に関する研究(J Clin Invest 2011)およびCHD8と脂肪細胞分化に関する研究(Cell Rep 2018)、村上 誠先生(東京大学教授)とのホスホリパーゼの肥満病態における機能解明研究(Cell Metab 2014)、山縣和也先生(熊本大学教授)とのSirt7の機能解明研究(Cell Metab 2014, Nat Commun 2017)、富澤一仁先生(熊本大学教授)とのtRNA修飾酵素の機能解明研究(Cell Metab 2015, Cell Rep 2018)、森田斉弘先生(テキサス大学)とのRNA分解/修飾の機能解明研究(EMBO J 2011, PNAS 2019)、池田宏二先生(京都府立医大教授)とのインスリンシグナルに関する研究(Nat Commun 2013, PNAS 2018)、太田訓正先生(九州大学教授)とのTSUKUSHIの新たな機能に関する研究(Sci Trans Med 2021)等、他研究者との共同研究も積極的に取り組んでおります。
我々は、基礎研究により生命現象およびその変容による病態の真理を追求することを目標に研究を進めております。さらに、自身の手によって得られた新知見を多くの臨床に携わる先生方との共同研究を通して臨床的にも科学しつつ、その成果を将来的に患者さんに還元する (From bench to bedside)という目標も常に意識して追求していきたいと考えております。